半導体用金型クリーニング材タブレット生産性向上プロジェクト

お客様から求められる新しい価値は、現状の枠組みを超えることから生まれていくものです。
ニーズにお応えする製品開発をはじめ、生産技術の向上による生産性の強化や生産ラインの立ち上げなど、
日本カーバイド工業の技術力、そして、人材力を物語るプロジェクトストーリーをご紹介します。

生産スピード向上を進めたベテラン×若手の二人三脚

半導体パッケージ向けの成形部品を製造する際、使用した金型に残った汚れを除去するために使用される「半導体用金型クリーニング材」。日本カーバイド工業が開発し、主にメラミン樹脂をベースとします。“半導体業界では今や欠かすことのできない存在”という高い評価をいただいていますが、さらなるお客様の要望にお応えし、今後も市場で広く求められるために、化成品事業部(プロジェクト当時)では製造現場に対して生産性向上を要請しました。これに対して生産技術センターの辰巳博徳と東海宏は、従来の品質を保ちつつ生産スピードをアップするプロジェクトに挑みます。

Member Profile

  • HIRONORI
    TATSUMI

    辰巳 博徳

    生産技術センター
    生産プロセス開発グループ 
    グループリーダー

    プロジェクト当時:
    生産技術センター
    技術グループ 主幹

  • HIROSHI
    TOKAI

    東海 宏

    生産技術センター 
    技術グループ

    プロジェクト当時:
    生産技術センター
    技術グループ

思うように進まないスピードアップ

富山県の早月工場で生産する半導体用金型クリーニング材(トランスファータイプ)は、チョークのような円柱の形状(タブレット)をしており、使用する金型のタイプによってさまざまな径、高さがあります。そのタブレットはタブレット打錠機という機械を使って製造。打錠機には多数の穴が並び、その穴に原料となる紛体のメラミン樹脂を次々と充填し、上下からプレスを加えることでチョーク状の製品が作られています。
理論的には充填するスピードを上げるほど生産性が高まると思えますが、スピードを上げると、規定通りの量が投入できなくなるケースも。事業部からの生産性向上の要請を受け、辰巳は数年前からこの課題に取り組んでいましたが、なかなか思うような成果が得られないまま目標達成の期限が近付いていました。

若手ならではの発想力と行動力に期待

事業部からの生産性向上の目標値は現状の130%アップ。それまで仮に1分間に100個作っていたとすると、130個に増やす必要があります。サイズや品種によってスピードアップが容易なものもあれば、困難なものも。それぞれの生産量もまちまちなので製品ごとにベストの条件設定を追求し、トータルでこの数値を達成することが求められていました。
20XX年5月、ようやく辰巳には改善の方向性が見えてきます。しかし、達成の期限が迫る中、アイディアを持ち、一緒に効率的に作業を進めてくれる仲間が必要だと考えていました。「それなら東海しかいないな」と当時の部門長が判断すると、あっという間に東海がプロジェクトに加入することに。辰巳が求めたのは時間が限られている中で現場のメンバーと一緒に汗をかきながら、新しい知識を吸収し、さらにそこに新たな改善のアイデアを投入していける人材。東海の起用は、若手ならではの斬新な発想力と行動力に期待してのことでした。

サラサラの原料を保つには?実験が続く

東海は初めてのプロジェクトへの参加に、やる気を持って取り組んでいきます。連日現場に足を運んで製造プロセスをつぶさに観察、理解し、生産効率アップのためにどこをどう改善すればいいかの分析を開始。やはり最終的には、タブレット打錠機の速度アップを目指し、生産スピードを上げながら規定通りの量の原料を充填すること。そのためには原料の流動性を良くし、いかにサラサラの状態を保てるかがカギとなることがわかりました。
原料は空気中の水分を吸ってベトベトとして固まったり、付着してしまったりすることも。一定の流動性を確保し、充填スピードアップに対応するには、季節ごとの湿度の変化も考慮しなければならず、実際にやってみなければわからない部分も多くありました。東海は現場の協力を得ながら実験を繰り返し、最適解を探っていきます。

現場の協力があってこその生産性向上

その後、東海は現場での機械のチューニングに集中。その成果は少しずつ表れ始め、現場のメンバーに「こうすれば、これだけ作業スピードのアップにつながる」という指示が出せるようになる頃には、その一年が暮れようとしていました。東海のプロジェクトへの加入から半年。従来同様の原料、工程を維持しながらも、生産の効率を向上させることになんとか成功できたのです。
こうした現場の生産性向上の取り組みにおいて、辰巳も東海も口を揃えて言うのが“現場スタッフとの合意形成”の大切さです。特に今回はテストを実際の製造ラインで行うことが多かったので、実生産と試作のスケジュールを調整することにも注意を払いました。また、現場にとってスピードアップは、必ずしもメリットと感じられることばかりではありません。方針や改善の意義をしっかりと伝え、いかにモチベーションを持って改善に参加してもらうかは、生産技術の重要な課題の一つでもあるのです。

まだ100点ではない。可能性を追求して、さらなる向上へ

その後、プロジェクトは当初の目標に達し、生産性向上の成果を生むことができました。しかし、その取り組みが完了したわけではありません。辰巳は「生産性向上の取り組みには終わりがない。その可能性のためにできることがある以上、100点ではないのです」と気を引き締めます。東海は「今回のプロジェクトでは生産効率を向上できたことがうれしかったですね。今は別の新たなプロジェクトに取り組んでいます。今後は、色々なプロジェクトに参加して、工場内のすべての設備を理解したい」と向上心を語りました。
ベテランと若手の二人三脚によって難しい課題を乗り越えた2人。いつかまた新しい課題に出会ったときには、再びコンビを組む日が訪れるかもしれません。